Tabi Tales
A Wild Sheep Chase

村上春樹北海道

村上春樹『羊をめぐる冒険』ゆかりの地をめぐる — 北海道・美深と士別

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村上春樹『羊をめぐる冒険』の舞台とされる北海道の町を辿る。架空の「十二滝町」のモデルとされる人里離れた集落から、村上自身が取材した羊飼育の町・士別まで。

羊をめぐる冒険

羊をめぐる冒険

村上春樹

美しい耳の彼女と共に、星形の斑紋を背中に持っているという一頭の羊と“鼠”の行方を追って、北海道奥地の牧場にたどりついた僕を、恐ろしい事実が待ち受けていた。一九八二年秋、僕たちの旅は終わる。すべてを失った僕の、ラスト・アドベンチャー。村上春樹の青春三部作完結編。野間文芸新人賞受賞作。

北海道の山奥、電車がもう走らなくなった先のどこかに、背中に星形の模様を持つ羊がいるという。その羊は人の心に入り込み、二度と出ていかない――そんな噂だ。

「完璧な絶望が存在しないのと同じように、完璧な希望などというものは存在しない」

物語の終盤、人ならざる者の口から語られるこの一節が、『羊をめぐる冒険』(A Wild Sheep Chase)という小説そのものを、いちばん端的に言い表しているかもしれない。村上春樹が1982年に発表したこの小説は、ノワール的な筋書きと静かな幻想性が入り混じった、奇妙で分類しがたい村上作品らしいスタイルが初めて確立された一冊とされている――戦後日本の繁栄に潜む、うっすらとした不安と共犯関係を、羊探しの探偵譚に仕立てた物語だ。名前を明かされない語り手は、一枚の絵葉書と一つの噂に引かれて北へと向かう。地図には載っていない、作中で「十二滝町」と呼ばれる村がある、その山々の奥へと。

地図には載っていないが、まったくの空想から生まれたわけでもない。村上自身の言葉によれば、彼はこの小説を書く前、北海道で実際の羊飼育について取材している。ただ想像するのではなく、実際に羊を飼う人々に話を聞いたのだ。この旅がたどるのは、その現実と虚構の境目にある一本の糸――読者の多くが十二滝町のモデルだと考える実在の集落と、村上が取材で足を運んだとされる、実在の羊飼育の町だ。あえて札幌は外している。作中の「いるかホテル」は印象的な舞台だが、この二つの町のように「ここがモデルだ」と言われる実在の建物があるわけではない。だからこのガイドは、実際に足を運べる場所に絞った。

立ち寄り先1: 美深町・仁宇布 — 十二滝町のモデルとされる集落

北海道美深町仁宇布のトロッコ王国美深を走るトロッコ(レールバイク)
写真: 南無観自在 / Wikimedia Commons

十二滝町として公式に確定している場所はありません。ですが、北海道北部・美深町の外れにある集落、仁宇布(にうぷ)が、最も有力な候補として繰り返し挙げられています。小説の中で、十二滝町は札幌から車で200km余り離れた場所とされていて、これは仁宇布までの距離感とだいたい重なります。作中には、採算が取れないことで有名なローカル線が町を通っている、という描写もあります。これは、美深町のかつての鉄道路線「美幸線」を思わせる符合です。美幸線は1980年代に廃止されるまで、日本の国鉄路線の中でも最も採算の取れない路線の一つとして知られていました。

語り手の旅がこれ以上進めなくなる場所が、ここだ。何か怪物めいたものが待っているわけではない。あるのは山と天気、そして「まともな人間ならここまでは来ない」という感覚だけだ。結末を読んでいなくても、ここに立てばその感覚は伝わってくる。「羊が最後に目撃されたのは北海道の山奥のどこか」という一文が、実際にはどういう場所を指しているのか――その答えが、この寂しさそのものにある。

この地域には実際に「仁宇布の冷水・十六滝」と呼ばれる名所もある。真夏でも水温が6度前後を保つ冷たい湧き水が生み出す、いくつもの滝の連なりだ。その場に立ち、水に手を浸してみると分かる。これがファンの間で長らく「十二滝」の名の由来ではないかと言われてきた理由が。十六滝も十二滝も、冷たい水であることに変わりはない。

かつて仁宇布駅があった場所には、現在「トロッコ王国美深」というレールバイク公園がある。廃線跡の一部が保存されており、訪れた人は小さなトロッコをこいで森の中を走ることができる。

立ち寄り先2: 士別 — 村上春樹が実際に取材した町

北海道士別市「羊と雲の丘」の世界のめん羊館
写真: Araisyohei / Wikimedia Commons

北海道の羊飼育を何もないところから想像だけで書いたのではなく、村上は実際に足を運んで見ている。伝えられるところによれば、彼の取材は1982年の刊行前のある時期、古くから羊飼育が盛んな街・士別に及んだという。ここにあるのは、より静かで、それでいて力強い巡礼の論理だ。「小説を思わせる場所」ではなく、山の場面を一行も書く前に、作家自身が実際にノートを手に立っていたかもしれない場所、ということだ。

士別は今も、その土地柄を前面に打ち出している。「羊と雲の丘」という名前は、少し立ち止まって味わう価値がある。丘陵地にある観光牧場で、世界各地から集められた珍しい品種の羊たちが、周囲の田園風景を見渡しながら放牧されている。晴れた日にここに立てば、人の心に入り込む羊の物語を追いかけていた作家が、まずここを訪れたくなった理由が分かる気がする。

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旅の実用メモ

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著者について

村上春樹は、世界的に最も知られる日本人作家の一人である。ジャズバー、静かな喫茶店、街歩きなど、彼の作品には東京の風景が繰り返し登場する。

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